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【NY通信#9】福岡から発信するindependentな文具カルチャー

MIEL読者の皆さまこんにちは!NYからKEIKOです。

突然ですが、「あなたの街の魅力は?」と聞かれたら、真っ先に思い浮かぶものは何だろう。

うどん、ラーメン、温泉、糸島——きっと答えは人それぞれでも、その根っこには「ここにしかない個性」への愛おしさが、共通して息づいているように思う。

今回は、その確かな審美眼を軸に、文具の世界を豊かに広げていく——そんな一軒の文具店との出会いを綴りたい。

芸術の香る街並みで

この街のシンボル、ワシントンスクエアパーク

マンハッタンの摩天楼とは対照的な、レンガや石畳の趣きある街並み。大きな凱旋門のあるワシントンスクエアパークでは、ピアノを演奏する人、のんびりと聞き入る通行人、ドッグランで楽しそうに跳ねる、ぬいぐるみのような犬たち。

街中にNYU(ニューヨーク大学)のキャンパスが点在する

その向かい側にはマーク・ロスコやロバート・マザウェルといった多くの著名画家を輩出したNYU(ニューヨーク大学)のキャンパスに、数々のアートギャラリーも点在していて、どこを切り取っても小説のワンシーンのような詩的な風情に溢れている。グリニッジ・ヴィレッジと呼ばれるこの街は第二次世界大戦後の1950年代、前衛的な小説家や詩人が主軸となってビートジェネレーション(自発的創造性を追求・開拓する思想運動)を生み出した場所。若者たちが自由に生き、自由に表現することを欲して強く生きた舞台なのだ。

HIGHTIDE STORE(ハイタイドストア)NEW YORK CITY

そんな気持ちの良い街並みのなかに、さらりと構える一軒の文房具店。

軒先にちょこんと置かれた看板には馴染みのある

【HIGHTIDE STORE(ハイタイドストア)NEW YORK CITY】の文字

——— そう、ここは福岡市の白金に店舗を構える文房具メーカー、

【HIGHTIDE(ハイタイド)】のNEW YORK CITY 店!

アメリカ市場への進出

明るく楽しげな店内。代表の棟廣さん(右)と、スタッフの皆様

手帳や雑貨といった文具を中心に展開する文房具メーカー【HIGHTIDE】のアメリカ進出は8年前に遡る。福岡に本社を持つ同社にロサンゼルスの商業施設から出店の依頼があったのだ。その依頼に応えるべく渡米し、現地法人を立ち上げたのが現在の【HIGHTIDE USA INC.】代表、棟廣(ムネヒロ)祐一さんだ。

福岡の店舗から移送したキオスク風の什器

「当時は、とにかくわくわくしてがむしゃらに何とか開店までたどり着いたけど、今思うと二度とごめんだと思うくらい色々あったなあ」と微笑む彼の横顔には、歩んできた道のりを愛おしむやわらかな余韻が感じられる。ビザの申請、法人登記、契約、引越し、開業準備、、人生の節目が幾重にも重なるような出来事が、突如として異国の地で、一斉に押し寄せてくる。さらにはようやく扉を開いたその直後、世界はコロナ禍に沈んでいくこととなれば、先の見えない日々の重さは計り知れない。

それでも ——紆余曲折の波を越え、いま【HIGHTIDE STORE】はロスに続き、ここNYにも店舗を構えている。

代表の棟廣さんのまとう、ふんわりとした穏やかな空気感と共に。

その醸し出す柔和な空気にこそ、この店の静かな強さを感じることが出来るのだ。

彼がふと口にした「インディペンデントでありたい」という確固たる個性と面白さを。

オリジナルブランド【penco】のバック

【PENCO】のノートはNYの雑貨屋でもよく見かけるようになった

景色を紡ぐ文具店

【HIGHTIDE STORE 】店内はオリジナルのプロダクトとセレクトの両方で構成される。

そのひとつひとつに遊びごごろと、リスペクトと、願いがこもっている。

謂わばキュレーションされたギャラリーなのだ。

古本の装丁そのままに、ページだけを綴りなおしたノートブック

マトリョーシカのように出てくる人気のツールボックス

それでも、商売における難しさが無いわけではない。

実はアメリカ市場における「文具」は、まだまだ消耗品の側面が色濃い。

ボールペンといえば、事務用品店でのダース買いスタイルもベターだ。(1本売りでの単価の低さも起因していると思う)「書ければいい」という合理的思考もそれを後押ししているだろう。

さらには家賃の高騰が止まらないNYで、小売業だけでは見合わない売上創出のためには卸売など販路拡充も重要となる。

しかしそんな逆境とも思える難しい市場を。——むしろそんな市場だからこそ。

付加価値をつけ彩ることの愉しさと豊かさを伝え、

コミュニティを創造することに嬉びがあるのだと教えてくださった。

そして、その確かな手応えは老若男女問わず様々な客層の様子からも感じられると言う。

久留米が誇るシューズブランド【moon star】

1940年代の欧米で新聞配達の少年達が使用していた“NEWSPAPER BAG”をユーモアたっぷりの解釈で商品化

紙の上から、街はつながっていく

取材を終えて店を出ると、厳しい冬の空気が頬をすっと撫でた。けれど心は不思議とあたたかい。きっとこの店を後にする客が手にする小さな紙袋の中には、ペンやノートだけでなく、この街で交わされた視線や会話の余韻まで一緒に収まっているのだろう。

【HIGHTIDE STORE】がNYで届けているのは、単なる“モノ”ではない。選ぶ時間、手に取る理由、書き留めたくなる衝動——そうした行為そのものを丁寧にすくい上げ、暮らしの中にそっと置いてくれる。「消耗」では片づけられない、使うほどに思い出が重なっていく道具たち。だからこそ初めて来た人も、常連も、年齢も国籍も越えて同じ棚の前で立ち止まり、自然に言葉が生まれるのだと思う。デジタルの時代において、「書く」という身体的な行為から生まれる情緒的な美しさにふたたび出逢える場所。

インディペンデント—— 何者にも支配されず、束縛されることなく自立した個性。

一見して尖ったように聞こえるその意思は、互いの違いや個性を愉しみ、歓び、認め合い。

共に生きようとする豊かで優しいエネルギーに満ちている。

福岡の街を彩る感性が、グリニッジ・ヴィレッジの日常に溶けていく光景は、なんだか胸がきゅっとするほど嬉しい。街の個性を愛おしむ気持ちが、遠いはずの場所同士を軽やかに結んでしまう。文具は、まるでそのための静かな合図みたいだ。

もしあなたが「自分の街の好きなところ」を言葉にしたくなったら、まずは一行だけでも書いてみてほしい。誰かに見せるためじゃなく、自分のために。そこからまた、新しい景色が始まるはずだから。

 

See you next time !!

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